Ocean padæmonium-The noisy Plasticscape-
「私が海の底に住むことはできないが、水の膜に穴をあけ、海の住人に耳を澄ませることはできるかもしれない。」(榊原,2023)

本作品はプラスチックごみを用いて人と海の相互関係、海の歴史を覗き見るサウンドインスタレーションである。
現代、海洋環境におけるプラスチックの有害性が議論され、海洋プラスチックの増加がデータで表されている。私たち人間がゴミとして排出するプラスチックごみは海を漂い、その量は年々増え続けている。海に放出されたプラスチックごみは海の波にもまれ、小さなかけらとなる。このプラスチック片やマイクロプラスチックが魚類をはじめ、ウミガメや海鳥、鯨などの海洋哺乳動物に被害をもたらしてきた。
そのデータは事実を的確に表しているが、どこか冷たさを帯びており、私たち個人がその数字に関わっていることを意識することは少ない。また陸から眺める海は穏やかで美しく、海の中の汚染と人間が見る海にはギャップがある。しかし水の膜を隔てた海では、生命にとって危機的な状況が広がっている。我々人間は海に住むことはできず、その境界を超えることはできない。そこで、仮想的な海を創り上げ、陸と海のギャップを表すと共に人間の五感へ訴えかけるよう情緒的にデータを翻訳し、音というレンズを通じて海の状況と歴史を覗き込む。
鑑賞者が瓶に近づくと、水が渦を巻き始め、綺麗な水の音が聞こえ始める。この瓶は海のメタファーである。次に鑑賞者は小さなプラスチックの破片をその渦の中に入れる。このプラスチック片は実際の海から拾ってきたものだ。この「プラスチックを捨て入れる」行為を鑑賞者が行うことによって、あなたという人間も海に関わっていることを意識する。
プラスチックを入れた状態で音を聞いても、依然として水の音のみ聞こえ、プラスチックの音は認識できない。これは陸から海を見た時の穏やかで問題のない海に似ている。そして、鑑賞者はヘッドフォンを装着し、音のレンズを通して海の中を垣間見る。すると、ハイドロフォンが捉えた陸からは聞く事のできなかった音が聞こえてくる。水が渦を巻くことで中のプラスチックが動き回り、プラスチックが小さな瓶の中で激しくぶつかる音が聞こえ、生き物たちが見ている海を認識する。マイクやヘッドフォンを通した時のみプラスチックの音が聞こえるのは、水の遮音性によるものである。プラスチック音は大部分が水面で反射される。そのため水中の音が空気中に伝わる、ということがほとんどない。
しばらくヘッドフォンで音を聞いていると、海の生き物の声が聞こえ始める。しかし、その声は徐々に歪んでいく。この音の歪みは、1950年代から現在までの海のプラスチック変化量のデータや、鑑賞者と瓶の距離、ハイドロフォンが捉える音の大きさによって変化していく。最終的にプラスチック音と歪んだ音しか聞こえなくなり、生物の声は消滅する。
- Credits
- Ayaka Sakakibara