2025年 春学期活動報告 - 移動式屋台とこれからの音と生活 - Len Matsuda
慶應義塾大学環境情報学部2年 松田 蓮

1. はじめに
2024年秋学期に慶應義塾大学を休学/藤井研を休研し、今学期に復学/復研した。休学期間中は様々な場所を旅しながら、様々な業界に入り込みながら、新しい景色、考えたこともなかった瞬間、好きだと思っていたことの別の側面を知る時間だった。
音楽 / 演劇 / 体験。この3本の柱で動いてきた自身の活動がさらに深化する種を蒔くことができた期間だと考えている。また、深化した分、少しずつ自らのキャパシティーの空きの少なさを認識する瞬間が多い期間であった。
今学期の活動報告では復学してからのx-Music Labでの制作と学びを自身の個人活動と結びつけて、この半年間の歩みを記したい。
2.「音を掘りだす家具」
復学 / 復研するにあたり、今期の制作テーマを定めた。
「音を用いた体験によって、日常生活に眠る「リズム」や「音楽」のかけらを彫り出すきっかけをつくる」ということである。
15世紀の美術家、ミケランジェロ・ブオナローティの「私は大理石の中に天使を見た。そして彫り出して天使を自由にした」という言葉を元に、すべての音は生活の中に眠っており、それらの音を「取り出す」仕掛けや体験・インターフェイスを制作することで、さらに日々の暮らしに新しい発見や面白みを見出すことができれば、と考えての選定だった。
それに伴ったリサーチクエスチョンとして
「日常生活に眠る「リズム」「音楽」のかけらを掘り出すきっかけづくりとして、最も効果の高い音体験はなにか?」
という問いを設定し、様々な方向からアプローチを模索した。
「音のタイムカプセル」
Sound Capsule (Door)
https://drive.google.com/file/d/1yXLw_3vB03HgCFC7EFO9c7hbeuHZ7cma/view?usp=sharing
日常の何気ない音を記録してみる。聴いてみる。その瞬間だけの記録を閉じ込めて未来に託す。未来で同じ音を聴いてみると存外知らない音の感覚がある。
時間と空間は変わっていくのに、その扉の中だけは、録音したあの瞬間で時が止まっている。
扉の開閉で録音/再生ができる家具。
扉に掛けるタグでモードが変わる。
good points :「扉を開ける」という動作の心地よさ ボイスメモなどとは違い、「一つの音」をその瞬間だけ、という制約
bad points :体験が弱い いつか使わなくなりそう 音の質にかなり拠るところがある タイムカプセルだけ「どうぞ」と渡されても困る
「『あたらしい音』を提供し、日々の生活の中でその音を発見できるように促す家具」
DropSounds Dog
https://drive.google.com/file/d/1mFN_qRmFarwX3NIEJFzUwox23XGS4DfW/view?usp=sharing
犬は私たちをまだ知らぬ景色へ連れていってくれる。
頭を撫でると聴いたことのない音を生成し、音を聴くことのできるQRコードと「その音の探す場所」をアトランダムに出力してくれる犬。
普段の生活の中で出会ったことのない音に出会い、日常で探してみる。毎日が小さな音探しの探検になる。
good points :「犬」の実体があること 体験として面白い 終わりじゃなくて始まりがある体験 「音を探す」という体験のきっかけになる 一番RQのAに近い
bad points :絵面・コスト・体験の責任 実装と現状に乖離がある 印刷方法によって体験がかわる 「撫でる」インターフェイスは面白い?
いくつかのDemoと企画案を制作しながら、「生活の中にある音を彫り出す」仕掛けとしての最適解を模索し続けた。
3. 制作テーマ / リサーチクエスチョンの変化
いくつかのDemoを制作し、それらをブラッシュアップするたびに、私がつくりたいものの根本はどこにあるのかと悩む日々が続いた。
アートなのか、プロダクトなのかという視点はもちろん、グループメンバーからいただいたFBのひとつにもあった「この体験によって『自分が楽しい / 体験として面白いと感じることを優先するのか』、それとも『体験者が楽しい / 体験として面白いと感じることを優先するのか』」ということだった。このFBは今期の学びの中で最も大きかったものである。
様々なpjを行いながら、現在もどちらに寄るべきなのか、それぞれのpjごとに悩んでいる。
その中で、x-MusicではMoonshotプログラムの参加なども通して感じていた、「自身が面白いと思う『何か』」の確立に向けて私は動き始めた。
その『何か』は、私も体験者も心から楽しい/面白いと思えるような体験を提供できるもので、最終的な終着点はアートにもプロダクトにもなる、といういいところづくしのリソースを見つけたい気持ちに駆られていたのを覚えている。
グループでのFBで度々いただいたこともある「絞った方がいい」という言葉を真摯に受け止めながらも、「絞らない」「縛らない」ことで始まった今期の制作は、可能な限り絞りたくなかった。
4.屋台の登場
2025年5月、自身の制作テーマの揺らぎと同時期に、自身の個人プロジェクトに新たな潮流が生まれた。
音楽活動は3月に新たなフルアルバムをリリースし制作期間に突入、演劇活動は9月に新しい舞台が決まってから稽古が始まるまで一段落した状態だった。
そのため、長い間溜めていた体験をつくるプロジェクトとしてあたらしく、「小売」をはじめることにした。
固定店舗、キッチンカーなどあらゆる販売形態を休学期間から検討し、店舗に至っては物件の選定まで進めていた状態だったが、復学を検討した際に継続して利益を出せるコミットが難しいと判断し、店舗を持つことは一旦やめ、プロジェクトが止まっていた。
その時に、友人を通して出会ったのが、「屋台」だった。
それを火付けに、一気に屋台を制作した。
5. 制作「移動式屋台」

素材 : 木材・黒板ボード / 横幅70cm、奥⾏き40cm、⾼さ170cm(運搬時110cm)
屋台になぜ面白みを感じたのか考察する。
①様々な場所に「お店」が赴き、その場その場に応じた企画を展開できること。
②「店主側」と「来訪者側」の距離が近く、同時に固定店舗に必ず存在する「出入口」の概念が曖昧なため、店と客 / 街と店の境界が曖昧になることで生まれる瞬間的な関係性があること
③江戸時代に生まれ、現代にまで引き継がれてきた日本独自の文化をリノベーションし、現代の街に持ち込むことができるということ。
「コーヒー牛乳屋台」から、「音を売る屋台」、「あなたのための短歌を売る屋台」まで、様々な屋台を街で展開してみた。その度に新しい気づきがあり、新しい面白さがある。
少しずつ当初の目標であった「生活の中のある面白さを彫り出す」ことに近付けたと感じている。
6. これからの展望と生活
「屋台」を様々なプロジェクトの土台に置き、様々な方向へ展開させたいと考えている。
本屋台を用いたプロジェクトとして「トロールの森2025」、演劇のプロジェクトとして「慶應義塾奨励基金『学習・研究奨励金』」に採択いただいた。
秋学期以降はそのプロジェクトを継続しながら、もっと新しい「音」を見つけられるようなものづくりをおこないたい。
生活の「あわい」の中に、淡い光のような「なにか」を見つけ出したい。

7. 謝辞
本学期の研究会活動を行うにあたり、多くの方々のご支援とご助言をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。
さらなる創作の飛躍を目指し、個人活動と並行しながらではありますが、尽力してまいりますので、何卒どうぞよろしくお願い申し上げます。

Author
Len Matsuda